『チーズはどこへ消えた?』を読む 1

 有名な『チーズはどこへ消えた?』を読んでみました。
 ストーリーはシンプルで、少なくとも「物語」の部分は1時間以内で読み終わるはずです。


1 本書について

チーズはどこへ消えた?

スペンサー・ジョンソン 著
扶桑社
2000年11月30日
94ページ

  • ある集まり シカゴで
  • 物語 チーズはどこへ消えた?
  • ディスカッション その夜

2 「物語」のあらすじ

(1) チーズを探す

 登場するのは、ネズミの「スニッフ」と「スカリー」、そして小人の「ヘム」と「ホー」。「チーズ」は人生で求められるもの、仕事、家族・恋人、お金などを象徴しています。また、「迷路」は会社や地域社会、あるいは家庭をさします。

 ネズミと小人は毎日、ジョギング・ウェアとランニング・シューズを身につけて自宅から迷路に入りチーズを探すという生活を送っています。
 ある日、チーズ・ステーションCの端で好みのチーズを発見し、それからというもの、ネズミも小人もその場所に通うのが日課になります。


(2) チーズはどこへ?

 しかしある朝行ってみると、チーズがなくなっていました。
 ネズミたちは、新しいチーズを探すためにすぐさま迷路に飛び出していきます。
 しかし小人の2人は違いました。ヘムは「チーズがないぞ」とわめき散らし、ホーはただ頭を振るだけでした。
 ヘムは繰り返し事態を分析しますが、いっぽう何もわからず目を閉じていたホーはスニッフとスカリーのことを考えます。

 けれどもその頃、ネズミのスニッフとスカリーは、チーズ・ステーションNで大量の新しいチーズを発見しているのでした。

 しばらくして、考え過ぎて追い詰められていくヘムと異なり、ようやくホーは新しいチーズを探しに行くことを提案します。
 しかし、ヘムがその提案を拒否したため、ホーはひとりで新しいチーズを探すため再び迷路へと足を踏み出します。


(3) 再びチーズを探す

 ヘムはあちこちでチーズを見つけはしたものの長持ちしないものばかりでした。

 その過程でホーはさまざまなことを感じます。
 チーズ・ステーションCのチーズはだんだん少なくなっていったのになぜそのことを考えなかったのか、そして、予想に反して当初の不安感はどこかへいってしまってチーズを探していること自体が愉快なこと、さらにどうしてもっと早く探しに行かなかったのかということ。

 ヘムのことが気になり新しいチーズを持っていきましたが、ヘムは変わっていませんでした。
 そんなヘムにがっかりしつつも、ホーはさらにチーズを探すうちに、人が恐れているものは自分の心が作り出したものだということにも気が付きます。


(4) チーズを見つける

 そしてついにホーはチーズ・ステーションNで新しいチーズを発見します。
 そこにはネズミのスニッフとスカリーがいて、たらふくチーズを食べていたのでした。

 そして、ホーは再びさまざまなことを思います。
 自分が変化を恐れていたこと、過去の愚かさや、物事を複雑に考えてしまったこと など。
 さらに、だいじなのは新しいチーズがどこかにあると信じること、そして、自分で道を見出さなければならないこと。

 最後に、チーズ・ステーションNの外の迷路に足音が響きます。
 それがヘムのものでありますようにと ホーが願うところで物語は幕を閉じます。


3 本書の特色

(1) 構成

  • チーズ・ステーションCでチーズを見つけるまで : 7ページ分(全体の14%)
  • そのチーズが消えてから、ホーだけが探し始めるまで : 17ページ分(全体の33%
  • ホーがチーズを探しているとき : 20ページ分(全体の38%
  • ホーがチーズ・ステーションNでチーズを見つけてから : 8ページ分(全体の15%)


 こうしてみてみると、小人のホーが単独でチーズを求めて迷路内を駆け巡っている場面に物語全体の4割近くがさかれています。さらに、小人の2人がなかなか行動を起こせずにいる描写が全体の3割を占めます。
 このことから、この物語でいいたいことのひとつは、チーズを見つけること自体が重要なのではなく、あきらめずにチーズを探し続けること、さらにチーズを探そうと素早く行動を起こすことが大事なのだということでしょう。


(2) 対照

 ネズミと小人、そして、小人のヘムとホーが対照的に書かれています。
 まず前提として、ネズミと小人が同じ境遇であることが描写されます。

毎朝、みんなジョギング・ウェアとランニング・シューズを身につけ、小さな自宅を出ると、好みのチーズを探しに迷路へ急いだ。(20ページ)

 つまり見た目はそれほど変わらず、異なるのはネズミか小人かということです。
 そして最も異なるのは、チーズ・ステーションCのチーズが消えたときの反応です。
 ネズミはすぐさまチーズを探しに行きますが、小人のヘムは考えこんでしまい、ホーは思考停止してしまいます。
 さらに、ネズミがチーズ・ステーションNで新しいチーズを見つけてから、ホーが同じ場所でチーズを見つけるまでに長い時間が経過していることも対照的です。
 また、自分の考えに固執してしまっているヘムと、新しいチーズを探しに迷路に踏み出すホーも、さらに対照的です。


(3) 象徴 - チーズ

 ネズミのスニッフとスカリーはガリガリかじることのできる固いチーズを探し、小人のヘムとホーは「真のチーズ」を見つけることにより幸せになろうとしています。そして両者ともチーズ・ステーションCで、山のようなチーズを発見します。

 そのチーズが消えてしまった後、スニッフとスカリーはチーズ・ステーションNでチーズを発見しますが、それは「見たこともないほどの大量のチーズ」とだけ表現されています。これは「単純」だという設定のネズミたちから見たチーズをあらわしているのでしょう。

 また、ホーも迷路内を探索し、あるチーズ・ステーションではチーズのかけらを発見しますが、それは少量で見たことのないチーズです。これは、何かに向けて行動している最中の小さな成功(いわばスモールステップ)を象徴しているといえます。

 最後にホーは、チーズ・ステーションNで大量のチーズを発見します。

あたり一面に、見たこともないほど大量のチーズがうずたかく積まれていたのだ。その全部がわかったわけではない。初めて見るチーズか何種類かあったから。(63ページ)

 チーズを発見することにより、ホーは幸せになり成功を味わうことができました。
 しかも、そのこともチーズに象徴されていて、「見たことのない」「初めて見る」などと表現されているように、思いもかけない、想像したこともなかった成功だったことが示唆されています。


 後半につづきます。

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