株式投資の教科書として有名な『ウォール街のランダム・ウォーカー』を読んでみました。
1 本書について
ウォール街のランダム・ウォーカー<原著第13版>
バートン・マルキール 著
日経BP 日本経済新聞出版
2023年5月26日
512ページ
- 第1部 株式と価値
- 第2部 プロの投資家の成績表
- 第3部 新しい投資テクノロジー
- 第4部 ウォール街の歩き方の手引
2 内容
第3部 新しい投資テクノロジー
第8章 新しいジョギング・シューズ 現代ポートフォリオ理論
(リスクが株式の価値を決める)
- 株式市場は新しい情報を速やかに織り込むため、誰も他人以上に市場の先行きを予測できない。
- リスクのみが、どの銘柄のリターンがどの程度市場平均を上回るのかを決め、株式の価値を決める。
(リスク)
- 投資のリスクとは、具体的に証券の期待したリターンが実現しない可能性
- 金融資産のリスクは、一般にリターンの分散または標準偏差として定義されている。
- リターンの振れが大きい証券の場合は、リスクが大きいという。
ここで重要なのは「リスク」が、リターンの「標準偏差」とされている点であり、「危険性」などという意味ではありません。
株式投資の目的が単に儲けるということではなく、自分が設定した目標金額まで運用し続けるということですから当然のことです。
この観点で言えば、儲けすぎることも「リスク」と認識されるはずです。
(ハイリスク・ハイリターン)
- 投資家が株式から得る高いリターンは、非常に高いリスクをとる代償として生まれている。
(リスクを減らす学問)
- リターンの目標が与えられた時に、株式をどのように組み込めばリスクが最小になるかがわかる。→ 分散投資のメリット
(相関係数)
- 分散投資において株式どうしのマイナスの相関は必ずしも必要ない。
- 完全に正の相関でない限り、分散投資さえすればリスク低減に役立つ可能性がある。
そして、分散投資を行う際にどのように分散させるかですが、その基準は相関係数の小ささであることが指摘されています。
必ずしも、ただ単に異なる銘柄ではないということに注意すべきです。
(分散投資)
- いろいろな業種から選んだアメリカ株50以上の銘柄に等金投資する。
- リスクの60%以上は低減できるが、これ以上保有銘柄数を増やしても、実質的なリスク低減はあまり期待できない。
- さらにリスクの高い外国株式を少しだけ加えることによって、ポートフォリオ全体のリスクが低下する。
- ただし、経済のグローバル化の急速な進展により、債権と株式との間の相関係数が高まった。
- しかし、新興国市場の株式を組み入れた投資家にとっては、十分高いリターンを享受できた。
- 最悪だった2008年ですら、幅広い債権に分散投資するファンドは5.2%のリターンが得られた。
また、どれだけ分散させるかについても分析されていて、50銘柄を超えて分散させてもそれ以上はあまり効果がないことも示されています。
さらに外国(ここではアメリカの以外)の株式を組み入れることも、相関係数にもよりますが一定の効果があるようです。
しかし、これからグローバル化がさらに進展していくとどうなるのでしょうか?
第9章 リスクをとってリターンを高める
(ベータ)
- システマティック・リスクは市場リスクとも呼ばれ、個別銘柄やポートフォリオが市場全体の変動に対して反応する度合いであり、それを数値化したのがベータ
- ベータは個々の銘柄などの動きと、市場全体のリターンの動きとの相関関係を示す。
- ベータの高い株式のことをアグレッシブな銘柄、ベータの低い銘柄をディフェンシブと呼ばれる。
- ただし、システマティック・リスクは分散投資でも低減することはできない。
- 非システマティック・リスクは個別企業の特有の要因によって引き起こされるもので、この場合、株価は市場とは独立して動く。
- これは分散投資によって取り除くことができる。
株式銘柄ごとの変動(非システマティック・リスク)については多数の銘柄に対する分散投資により取り除くことができますが、株式市場全体の変動(システマティック・リスク)を取り除くためには、別の方法によらなければなりません。
その方法は本書の後半部分で紹介されます。
(資本資産評価モデル CAPM)
- このモデルでは、銘柄の個別リスク及び総リスクが低いグループと、それぞれが高いグループとではリターンは同じになる。
- これは、非システマティック・リスクが分散投資によりすべて取り除かれてしまったから
- 個別銘柄などのリスクが高まれば期待リターンも高まる。
- すべての資金を国債や銀行預金で運用すればベータはゼロとなる。
- ポートフォリオのベータを調節することによって様々な期待リターンが作り出せる。
- たとえば資金の半分を銀行預金に回し、残り半分を株式市場に投資する。
(実績)
- しかし、1980年代の投資信託のリターンとベータを調べたが、個別株式などのリターンと計測されたベータとは何の関係もなかった。
- だが、ベータは投資運用に役立つツールである。
(裁定価格理論 APT)
- 伝統的な尺度であるベータに加えて、国民所得、金利、インフレなどの変化に対する感応度などの変数を用いる。
(マルチ・ファクター・モデル)
- 会社の規模と株価純資産倍率が、重要なリスク・ファクターである。
第10章 行動ファイナンス学派の挑戦
(非合理的な投資行動)
- 行動ファイナンス:人々は合理的に行動しない。
(自信過剰)
- 投資家は自分の予想能力を過信し、将来見通しに関して楽観的すぎる。
(偏った判断)
- ある程度結果を左右できるという幻想が、ありもしない株価トレンドや、将来の株価を予測する株価パターンの存在を信じてしまう。
(群れの心理)
- 集団で行動することによって、ある間違った考え方が訂正されることなく増幅され、それが共有される。
(損失回避願望)
- 投資の意思決定は、価値の最大化というよりは利益あるいは損失がその人々の持つ効用に与える影響の大きさに依存する。
- 通常は損失のほうが利益よりもはるかに望ましくないものとして受け止められる。
いわゆるプロスペクト理論における損失回避願望ですね。
損失の痛みのほうが利益の喜びよりも2倍以上大きい、さらには大きな利益を得ることよりも小さな損失を回避することを優先する。
しかし、これは絶対的な金額よりも、個人における相対的な金額に依存するのだと思いますが。
たとえば、毎月の給料が20万円の大人にとっての100円と、毎月の小遣いが1000円の子どもにとっての100円とは、比較しようがありません。
(自尊心と後悔)
- 値上がりした銘柄を処分し、値下がりした銘柄は持ち続けるという選好を持っている。
(貯蓄)
- 401k年金プログラムに参加したがらない。
- 損失回避願望は、面倒な意思決定はなるべく先延ばしにしたいという願望と重なる。
- 強制されない限りあまり貯蓄をしたがらない。
401kは日本におけるiDeCoと同様、確定拠出年金の制度ですが、401kは企業が従業員のために拠出するのと異なり、iDeCoは従業員自身が拠出します。
したがって、iDeCoに拠出した分は所得税控除の対象となります。
(教訓)
- 著作「敗者のゲーム」:敗者が自滅することによって勝敗が決まる。
- 頻繁に売買を繰り返す投資家のパフォーマンスは例外なく、じっくりバイ・アンド・ホールドを続ける投資家のパフォーマンスより劣っている。
- 群集の暴走に巻き込まれるなかれ
- 過度の売買を控えるべし
- どうしても売る必要があれば、儲かっている銘柄ではなく損している銘柄を売れ
- 新規公開株は要注意
- 耳寄りな話には耳を貸すな
- 保証付きの投資を信用するな
「敗者のゲーム」でもテニスのプレーになぞらえて、勝つことよりも負けないことが重要だと説いているそうです。
たしかにスポーツにおいては、スーパープレイをするよりもミスをしないことが大前提であり、このことは長期投資においても同様だといいます。
第11章 「スマート・ベータ」と「リスク・パリティー」 新しいポートフォリオ構築方法
(スマート・ベータ)
- シャープ・レシオ:特定の運用戦略から得られた超過リターン/ 運用戦略から得られた総リターンの標準偏差
(代表的な属性)
- バリュー株は株価収益率(PER)や株価純資産倍率(PBR)が低い銘柄
- 長期で見ると小型株は大型株よりもリターンで上回る
- モメンタム:勢い、慣性、トレンド
- リバージョン:平均への回帰性
- ファクター・ブレンド運用
(示唆)
- 結局、スマート・ベータ戦略はいくつかのファクター属性を持つ銘柄群を組み入れるアクティブ運用である。
つまり、アクティブ運用でありながら、分散投資の要素も取り入れることでリスクを減少させているのですね。
(リスク・パリティー戦略)
- ひとつは高リスク資産を中心に組み入れる運用。
- もうひとつは、低リスク・低リターン資産を組み入れたポートフォリオを作り、借入金でレバレッジを高め、ハイリスク・ハイリターンのポートフォリオに変える運用。
- 借入金で投資規模を大きくすると、意に反して保有債券の一部を売却するのを余儀なくされることがある。
(ESG投資)
- 投資先企業が実際にその目的にどの程度貢献しているかを検証できない。
- 格付会社の企業に対するスコアは、その会社によって大きく異なっている。
- ただし、ESG投資に対する関心の高まりにより、その企業がESG格付けを高めようとする動機付けにはなる。
これも社会的な雰囲気により株価が形成されるいい例と考えられます。
第4部につづきます。
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