ウォール街のランダム・ウォーカー<原著第13版> 第1部

 株式投資の教科書として有名な『ウォール街のランダム・ウォーカー』を読んでみました。


1 本書について

ウォール街のランダム・ウォーカー<原著第13版>

バートン・マルキール 著
日経BP 日本経済新聞出版
2023年5月26日
512ページ

  • 第1部 株式と価値
  • 第2部 プロの投資家の成績表
  • 第3部 新しい投資テクノロジー
  • 第4部 ウォール街の歩き方の手引

2 内容

まえがき

(本書の趣旨)
 幅広い銘柄に分散投資したインデックス・ファンドを安定保有することで良い結果が得られる。

(インデックス・ファンドの実績)
 50年間の累積投資実績によって裏づけられている。
 現在の株式投資信託の資産の半分以上が、インデックス・ファンドで運用されている。

(理論)
 効率的市場仮説という考え方。

  • 新しい投資情報は速やかに市場株価に織り込まれる。
  • 通常以上のリスクを取ることにより、通常以上のリターンを手にすることができる。

 本書において、リスクとはいわゆる「危険」という意味ではありません。(後述)

(反論)

  • アクティブ・ファンドが市場平均を上回る成績を上げている。
  • その2/3は毎年インデックス・ファンドよりも低いリターンである。
  • しかも優れた成績を上げたファンドでも、次の年にはしばしば負け組となる。
  • さらに長期の累積結果でみると、アクティブの90%は市場平均以下となる。
  • 大きな利益が得られるような投資機会は、世の中が悲観一色に染まっているときに訪れる。(いわゆる「暴落」時)
  • このような場合にこそインデックス・ファンドの有効性が証明される。

 インデックスファンドに対する批判についてもきちんと反論されていますね。
 筆者によるとアクティブファンドは、一時的に非常にいいパフォーマンスを発揮することはあっても長く続かないことが指摘されています。
 また、暴落時においてアクティブファンドは逃げるしかないものの、インデックスファンドは低くなった値段で買い増しできることも併せて指摘されています。

(本書の目的など)

  • 一般投資家にとって読みすやい教科書
  • インデックス・ファンドへの投資、分散投資とリバランスがリスク限定に効果的
  • 税金を考慮し、節税しながら投資リターンを積み重ねること
  • 個人投資家にパワーを与えること
  • 自分の金融面の人生設計は、あくまで自分で作るべきである。

 分散投資の利点を活かすためには、インデックスファンドの購入を長期にわたって行うことが最善であるとしています。
 ほかにリターンそのものだけでなく節税についても気を配るべきことなどが強調されています。


第1部 株式と価値

第1章 株式投資の二大流派

(ランダム・ウォークとは)

  • 株価が短期的にどの方向に変化するかを予測するのは難しい。

(生活の一部となった株式投資)

  • 投資と投機との違いとは、どのような期間でリターンを考えているか、そして、リターンが合理的に予測できるか
  • その意味で、本書は「ゆっくりと、しかも確実に金持ちになる本」である。
  • 私たちは資産価値を守るために努力しなければならない。
  • 緩やかなインフレに対してさえ、実質購買力を維持するためにそれ相応の投資戦略が必要

 ゆっくりと確実にという点がポイントでしょう。
 さらに本書で何度も指摘されているのはインフレ対策ということです。
 ほとんど利子のつかない日本の銀行預金では「インフレ負け」してしまうということですね。

(将来を予測する理論)

  • ファンダメンタル価値理論
  • 砂上の楼閣理論
  • 新しい投資テクノロジー理論

(ファンダメンタル価値学派)

  • 資産には本質的価値があり、それは現状分析と将来予測を行うことによって推定できる。
  • 本質的価値を市場価格が下回れば資産を購入し、上回れば売却する。
  • ウォーレン・バフェットが実践している。
  • しかし、あまりはっきりした根拠のない予測に大きく依存している。

 これが正統派なのだと思います。
 しかし、この理論を実践するには多くの時間をかけて情報を収集して勉強する必要があり、人生のほとんどを投資に費やすことになってしまいます。

(砂上の楼閣学派)

  • 企業の収益見通しや配当が将来どうなるかは誰にもわからない。
  • 一般投資家よりも早く通常の評価尺度を用いて株価水準の変化を予測する。
  • 美人投票:自分が美人と思う候補ではなく、不特定多数の参加者の平均的な見方を予測する。
  • 金融資産評価の視点ではなく、群集心理の原理を重視

 代表的な提唱者があのケインズだったようですが、これも市場を注視している必要があり、専業者にならなければ実践できませんね。


第2章 市場の狂気

(オランダのチューリップ・バブル)

  • チューリップはウイルス性の病気により、色鮮やかなモザイク模様が作り出される。
  • 花びらの模様が美しいものに対して、高い値段がつくようになった。
  • チューリップは「確実に儲かる投資対象」として認識される。
  • 少ない元手で巨額の投機が可能となる「コール・オプション」に似た手法の開発。
  • 1637年に球根の値段が20倍になった後、下落。その下落は加速がついてただ同然の値段に。

 これがバブルであったことは間違いないようですが、肝心なのは珍重される一部のチューリップについてはもともと価値があって、ある程度高値で取引されていたという点ですね。
 従来より一定の価値が認められていたからこそ、徐々に価格が高騰していき感覚が麻痺してしまったのでしょうか?

(イギリスの南海バブル)

  • 大英帝国の繁栄により市民は金持ちに。投資の機会が不足していた。配当が非課税だった。
  • 1711年に設立された南海会社は南米貿易を独占的に付与されたため、一般市民がその株式を熱狂的に購入
  • ただし、その経営陣は南米貿易の経験がなくずさんな経営だった。
  • 株価が実態と何の関係もないことに疑問を持った経営者、幹部社員が株を手放す。
  • そのことが知れ渡ったために株価は急落、パニックに。

(ウォール街が育んだバブル)

  • 1920年代のアメリカは比類なき繁栄へ。株式投資がアメリカ人の生活の中心に。
  • プーリング操作、自社株の空売りなどの不正行為。
  • 1929年10月「暗黒の木曜日」より株価が急落、32年までに95%下落。
  • 原因は、投機筋を規制するために金利を引き上げたこと、マネーサプライの急速な収縮があったため。

第3章 1960年代から90年代にかけてのバブル

(アメリカの1960年代)

  • 成長株、新規公開株に熱狂。「エレクトロニクス」をもじった名前がついていれば、事業内容に関心なく購入
  • 「シナジー」の名の下に企業合併が行われ、コングロマリットになることにより、成長がない企業の一株利益が増加するように見せかける。
  • 言葉のイメージで投資家を幻惑。造船事業 →「海洋システム」、鉄鋼製造 →「素材テクノロジー」など

 こうしてみると株式投資という行為も、提供者の利潤を追求した商品あるいはサービスなのだと思わされますね。
 その商品などを広告宣伝によって、さも大きな価値があるように見せるのはある意味当然なのかもしれません。

(1970年代のニフティ・フィフティ)

  • ブルーチップ(優良大企業)への投資へ
  • ニフティ・フィフティ(素晴らしい50銘柄)と呼ばれる。
  • 株価収益率が増大、ブーム終焉へ

(1980年代)

  • ハイテク株公開ブーム

(日本の株価・地価バブル)

  • 1955年から1990年にかけて、日本の地価はおよそ75倍、株価は100倍に
  • 政府が地価高騰への歯止めと株式市場における望ましい調整が入ることを目的に、銀行の与信活動を制限し金利上昇を誘導
  • 調整ではなく暴落が発生し、株式市場はその後30年以上にわたって低迷

 ここで目を引くのは、政府の施策により株式市場がハードランディングとなってしまったという指摘でしょうね。


第4章 21世紀は巨大なバブルで始まった

(インターネットバブル)

  • バブルではブームを持続させるために、多くの投資家を引き入れて株を転売し続けることが必要
  • 「ドット・コム」という社名にこぞって変更(1960年代のエレクトロニクスと同じ)
  • 証券アナリストは、株価を支えるためのサービスを提供することに
  • 投資のための情報提供として投資情報雑誌の創刊。テレビでも相場分析番組が放映
  • 大事なのは企業が利益を生み出し、維持していく能力
  • 負け続けるのは相場の加熱に身を任せてしまう投資家


(住宅バブル)

  • 従来の銀行は住宅抵当ローンを供与すると、資産として計上し持ち続けていた。
  • 2000年代にはローンを供与した銀行はそれを投資銀行化に転売し、投資銀行は小口のローンをプールしてそれを担保に債権を発行(ローンの証券化)、世界中に売った。
  • 派生商品の規模が原資産の何十倍にも膨れ上がった。
  • 融資基準が緩和され、頭金なし、収入なし、定職なしでも融資された。
  • 住宅価格の上昇によりさらに多くの買い手が発生
  • 返済不能に陥る人が家を手放し、大半の住宅抵当証券は紙くずに。金融機関も破綻

 要は規制が緩和されたことが引き金になったようですね。
 緩和されることはいいとは思いますが、そのされ具合が大幅だとこのような急激な変化が発生してしまうのですね。

(バブル)

  • バブルがはじけた後は必ず実体経済に深刻なダメージを与える。
  • バブルに対して市場が自ら身を正しただけで、市場で本来の価値が認識されたということ

 筆者はバブルに対して冷静な態度(身を正しただけ)を貫いています。

(ミーム株)

  • 社会的なムードによってミーム的に株価が形成されることもある。

(仮想通貨)

  • 通貨の機能:交換手段、信頼できる基準、価値の貯蔵手段
  • 現在のビットコインにはその機能はない

 たしかに「交換」については便利なのかもしれませんが、仮想通貨の乱高下を見るにつけ「基準」「貯蔵」という観点ではまったく信頼するに足らないのは納得できます。

(教訓)

  • 膨らんだバブルは破裂する。
  • 難しいのは、短期間で一攫千金を狙うような誘惑に打ち勝つこと

 バブルの根本要因に人間の感情があるのであれば、いずれ収束することは明らかですね。


 第2部につづきます。

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